研究成果

マクロファージへのコレステロール蓄積が肝線維化を促進する:
超分子ポリロタキサンを用いた非アルコール性脂肪肝炎治療法の開発へ

 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学環境医学研究所/医学系研究科の菅波孝祥 教授、伊藤美智子 特任准教授、東京医科歯科大学生体材料工学研究所の田村篤志 准教授を中心とする研究グループは、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)において、マクロファージへのコレステロール蓄積が肝線維化を促進するという新たな病態メカニズムを明らかにしました。世界的な肥満の増加に伴って 4 人に 1 人が脂肪肝を発症し、そのうち 10〜30%が炎症と線維化を特徴とする NASH に進展します。近年、NASH は肝細胞がんの主要な原因疾患として注目されていますが、未だに有効な治療法は存在しません。予後良好の脂肪肝と異なり、慢性進行性の NASH ではコレステロールに代表される細胞障害性脂質が蓄積しますが、従来は主に肝細胞に注目して研究が行われてきました。今回、研究グループは、NASH マウスモデルやヒト NASH サンプルの解析から、死細胞の処理にあたるマクロファージにコレステロールが蓄積することで NASH に特徴的な活性化が誘導され、肝線維化が進行ことを明らかにしました。さらに、独自の超分子ポリロタキサンを合成し、マクロファージ内に蓄積したコレステロールを排泄させることで、NASH マウスモデルにおける肝線維化を抑制することに成功しました(下記概念図)。
 本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構・革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」(研究代表者:京都大学医学研究科 柳田素子 教授)、橋渡し研究プログラム「脂質ストレスを制御する超分子ポリロタキサンを用いたNASH 治療戦略の開発」(研究代表者:菅波孝祥 教授)、日本学術振興会・科学研究費助成事業、ならびに公益財団法人住友電工グループ社会貢献基金などの支援を受けて行われたもので、その研究成果は、国際科学誌 Journal of ExperimentalMedicine 誌に掲載されました(2023 年 9 月 19 日付電子版)。【研究成果のポイント】
○NASHの肝臓においてコレステロール結晶が形成され、これを貪食したマクロファージにコレステロールが蓄積することを見出しました。
○脂肪肝の肝臓から単離した培養マクロファージにコレステロールを貪食させると、NASHに特徴的な活性化が誘導され、線維化促進形質を獲得することを明らかにしました。
○独自に合成した超分子ポリロタキサンは、マクロファージ細胞内のコレステロールを排泄し、NASHマウスモデルにおける肝線維化を抑制しました。

詳しい研究成果はこちら


書誌情報

雑誌名 Journal of Experimental Medicine
論文タイトル Lysosomal cholesterol overload in macrophages promotes liver fibrosis in a mouse model of NASH
著者 Michiko Itoh, Atsushi Tamura, Sayaka Kanai, Miyako Tanaka, Yohei Kanamori, Ibuki Shirakawa, Ayaka Ito, Yasuyoshi Oka, Isao Hidaka, Taro Takami, Yasushi Honda, Mitsuyo Maeda, Yasuyuki Saito, Yoji Murata, Takashi Matozaki, Atsushi Nakajima, Yosky Kataoka, Tomoo Ogi, Yoshihiro Ogawa, Takayoshi Suganami
DOI 10.1084/jem.20220681

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Jou_230920en.pdf