研究成果

機能不明であったブタカルボニル還元酵素のステロイドホルモン代謝能を解明

岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科 遠藤智史准教授(COMIT革新的モダリティ創出部門)の研究グループは、高等研究院 高須正規准教授、岐阜県警・科捜研、岐阜薬科大学と共同して、機能未知であったブタカルボニル還元酵素のステロイドホルモン代謝能を解明しました。

 ステロイドホルモンは哺乳類における多様な生理的プロセスに不可欠です。ヒトでは、最近、testosteroneや5α-dihydrotestosteroneなどの従来型アンドロゲンに加えて11-ketotestosteroneや11-ketodihydrotestosterone (11K-DHT) のような11-oxygenated androgensが生成され、アンドロゲンシグナルに関与することが示され、注目を集めています。このようなステロイドのケト基とヒドロキシ基の相互変換することでステロイドホルモンの合成と分解に重要な酵素としてhydroxysteroid dehydrogenases (HSDs) が存在し、これらはshort-chain dehydrogenase/reductases (SDRs) とaldo-keto reductases (AKRs) に分類されます。これまでにヒトのSDRファミリーには3β-HSD、2種の11β-HSDs、14種の17β-HSDとDHRS11が、AKRファミリーにはAKR1C1-4が含まれることが明らかにされています。一方でブタは19-nortestosteroneとepiandrosteroneという2種のアンドロゲンを大量に生成し、オスではフェロモンであるandrostenoneも生成するなど、ヒトとは異なる性質を示します。ブタHSD遺伝子としては、NCBI遺伝子データベースにcarbonyl reductase 1 (pCBR1) とpCBR-N1が登録されていますが、これら遺伝子産物の性状は未解明でした。
 今回の研究では、pCBR1およびpCBR-N1と、最近同定した2つのブタAKR酵素 (pAKR1C1とpAKR1C4) の4つの酵素が、ステロイドホルモン代謝にどのように関与しているかを解明しました。これらの酵素が、19-nortestosteroneとepiandrosteroneを含むC18/C19ステロイドおよびC21ステロイドの3-および17-ケト基を還元することを明らかにしました。特に、11-ketoおよび11β-hydroxy-C19ステロイドの代謝におけるこれらの酵素の役割を初めて報告しました。また、pCBR1とpCBR-N1が、コルチコステロイドの分解およびGABA作動性神経ステロイドの合成に関与することを確認しました。さらに、ヒトHSD酵素との比較解析を行い、ヒトCBR1が、ブタpCBR-N1と類似したステロイド特異性を示すことを確認しました。
 本研究により、ブタとヒトのステロイドホルモン代謝の理解を深めることができました。特に、11-oxygenated androgensやGABA作動性神経ステロイドの代謝経路の詳細が明らかになったことで、将来的なステロイドホルモン関連疾患の治療法開発に寄与する可能性があります。
 本研究成果は、Elesevier社刊行の学術雑誌「The Journal of Steroid Biochemistry and Molecular Biology」に、日本時間2024年6月28日にオンライン版 (Open Access) で発表されました。

 論文のオープンアクセス可に関して本学図書館の支援を受けましたこと、この場を借りて感謝いたします。

書誌情報

雑誌名 The Journal of Steroid Biochemistry and Molecular Biology
論文タイトル Involvement of porcine and human carbonyl reductases in the metabolism of epiandrosterone, 11-oxygenated steroids, neurosteroids, and corticosteroids
著者

Satoshi Endo, Yoshifumi Morikawa, Koichi Suenami, Yuji Sakai, Naohito Abe, Toshiyuki Matsunaga, Akira Hara and Masaki Takasu

DOI 10.1016/j.jsbmb.2024.106574