アルツハイマー病の新たな治療標的を発見
〜脳内のカンナビノイド受容体2型への刺激が認知機能障害を改善〜
国立大学法人名古屋大学環境医学研究所/医学系研究科の祖父江 顕特任助教(筆頭著者)、山中 宏二教授らの研究グループは、東京都健康長寿医療センター、理化学研究所脳神経科学センター、名古屋市立大学医学研究科との共同研究により、カンナビノイド受容体2型(CB2)刺激によるアルツハイマー病(AD)の病態を改善する仕組みを解明しました。
CB2は免疫系の細胞に発現しており、刺激することにより病的な炎症を抑制して、細胞を保護する役割を果たしていますが、アルツハイマー病をはじめとする神経疾患におけるCB2刺激の効果や作用メカニズムに関してはよくわかっていません。
本研究では、ADマウスの大脳皮質から単離したグリア細胞および病理診断によりADと診断された死後脳の楔前部(けつぜんぶ)におけるCB2の発現解析を行いました。また、CB2の選択的作動剤であるJWH 133をADマウスに投与し、認知機能および神経炎症の変化を解析しました。
その結果、CB2はADマウスのミクログリアに主に発現しており、ADの病態進行に伴って発現上昇することが明らかとなりました。また、ADの死後脳でも同様にCB2の発現上昇が確認されました。さらに、JWH 133の投与によるミクログリアのCB2刺激によりADマウスにおける認知機能の低下が改善しました。この認知機能の改善にはミクログリアからの補体C1qの分泌が抑制され、それに伴うアストロサイトの病的な活性化の抑制が関与すると考えられます。
これらの研究成果はCB2を標的とした神経炎症の制御によるアルツハイマー病の新たな治療法の開発に繋がることが期待されます。
本研究は、2024年11月26日付 国際医学誌「Cell Death and Disease」に掲載されました。
【研究成果のポイント】
・カンナビノイド受容体2型(CB2)はアルツハイマー病(AD)死後脳およびADモデルマウスのミクログリアに発現し、病態進行に伴って発現が上昇することを発見。
・CB2の選択的作動剤であるJWH 133の慢性投与によりADモデルマウスの認知機能障害が改善。
・CB2の慢性刺激によりアストロサイトの病的活性化を抑制して神経炎症が改善することを発見。
・CB2を標的とした新たなアルツハイマー病治療法の開発が期待される。
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書誌情報
雑誌名 | Cell Death and Disease |
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論文タイトル | Microglial cannabinoid receptor type II stimulation improves cognitive impairment and neuroinflammation in Alzheimer's disease mice by controlling astrocyte activation |
著者 |
Akira Sobue, Okiru Komine, Fumito Endo, Chihiro Kakimi, Yuka Miyoshi, Noe Kawade, Seiji Watanabe, Yuko Saito, Shigeo Murayama, Takaomi C Saido, Takashi Saito, Koji Yamanaka |
DOI | doi.org/10.1038/s41419-024-07249-6 |