研究成果

甲状腺未分化がんの発生に、がん細胞の“初期化”が関わることを発見
iPS細胞の技術を応用したマウスモデルで解明
―がん細胞に本来の性質を取り戻す“再分化”治療への手がかりも―

 三重大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉・頭頸部外科学の柴田博史教授と、岐阜大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉科学 大学院生の川浦僚さん(当時)、宇野女亜香里さん、および岐阜大学高等研究院の富田弘之教授の研究グループは、極めて悪性度の高い甲状腺未分化がんが生じる過程で、がん細胞が発生初期の未熟な細胞のような状態へと“初期化(胚性リプログラミング)”されることが重要な役割を果たしていることを明らかにしました。iPS細胞の技術を応用した新しいマウスモデルで、初期化によって甲状腺乳頭がんが未分化がんに似た状態に変化することを示すとともに、遺伝子NKX2-1を再び働かせることで未分化がん細胞が甲状腺乳頭がんに近い性質を部分的に取り戻すことを確認しました。

 本研究成果は、2026年10月26日に国際学術誌「Cell Reports」に掲載されました。

 

本研究の概要図

 

【研究成果のポイント】

・甲状腺未分化がんは、診断後の平均生存期間が3〜6か月とされる最も悪性度の高いがんの一つで、比較的おとなしい甲状腺乳頭がんから生じることが多いものの、その仕組みは不明でした。

・ ヒトの甲状腺未分化がん42例を調べたところ、甲状腺の細胞らしさを決めるタンパク質NKX2-1が失われ、多くの例でiPS細胞などの多能性幹細胞に特徴的なタンパク質が検出されました。

・マウスモデルでiPS細胞の作製に使われる4つの遺伝子(山中4因子)を甲状腺で発現させたところ、BRAF遺伝子変異をもつ甲状腺の細胞が、従来のモデルで用いられてきたTP53遺伝子変異がなくても、未分化がんに似た状態へと変化しました。

・未分化がん細胞でNKX2-1を再び働かせると、増殖が抑えられ、乳頭がんに近い性質へ部分的に戻る(再分化)ことを細胞・マウスの実験で確認しました。

 

詳しい研究成果(和文)はこちら




書誌情報

雑誌名

Cell Reports

論文タイトル

Embryonic reprogramming drives anaplastic transformation in thyroid carcinoma

著者

Ryo Kawaura†, Akari Unome†, Hiroyuki Tomita*, Hiromasa Ishihara, Masashi Kuroki, Shingo Komura, Koki Kato, Shigeo Takashima, Naoki Nishio, Mayu Shigeyama, Tomoya Hirata, Ryo Ishii, Shioko Kimura, Shin Tsunekawa, Haruhiko Akiyama, Akira Hara, Yasuhiro Yamada, Takenori Ogawa, Hirofumi Shibata*(†共同筆頭著者、*責任著者)

DOI 10.1016/j.celrep.2026.118195